>>71 帰宅中 愛しているのと からかわれる 「…は?」 「だから男は物好きだなと言ったんだ」  いや、聞き返したのはその言葉が聞こえなかったからじゃない。  そうでなくて―― 「や、そんなことはない、と思うぞ」  目の前のクーはまぁ、何となくとっつきづらくて、そりゃ敬遠されるタイプだと思う。  でも、ややツリ目気味の整った顔は密かに評価高かったりするし、背の小さい小動物的な風貌は同姓にこそか なり可愛がられている。性格も――まぁ 「いや。私みたいな可愛げというものから最も離れたタイプの女子と付き合うというのだ。  勿論男のことはこの世で一番好きなのだが――」  こういう極度にストレートなところは少し困りモノだが、でもそれはそれで可愛い所だと思う。  あー、ホント何で俺なんかと付き合おうなんて気になったものかね。  など思っている内に、彼女のトークは続いていた。 「男の相手が私というのは、男に無理をさせていないかと偶に思ってな。  告白したのはこちらからだし、もしかして気を使って――」 「んなわけ、あるか」  そこで、強引に言葉を切った。  何を言ってるんだ。  そんなのは杞憂もいいとこだ。  ああ、そんなに心配かよ。そうか、いつもあんな調子だから全く気が付かなかった。  ならいつもクーがしてることをこっちだってやってやる……!! 「は?」 「いいか、よっく聞けよ。  俺は、クーのその顔も目も鼻も口も耳も好きだ!」 「あ、ああ」 「背が小さいところも胸を実は気にしているところも勉強できるくせに化学の実験はヤケに失敗が多いドジなと ころも好みだし、無表情に見えてよく見るとコロコロ表情かわってるところも料理が下手で俺の弁当いつも楽し みにしてるところとか可愛いと思わない方が変だ!  それに、あー…」 「……」  ぽかん、としている。  ――まぁ。俺も自分で自分が何を言っているのか勢いが先に来て盲目気味なのだが。 「あー、俺はその、お前のそんな素直でクールなところ、好きだし」  そこまで言った所で、流石に少し我に返って言葉に詰まる。 「…男は今もの凄く恥ずかしい事を言ったという自覚はあるのか?」 「う。 あ、あるよ  なんだよ、いつもそっちが言ってる事だろ」 「ふふ、考えてみればそうだな。  世辞だとしても――とても、うれしい」  だから何でそんな余計なこと気を使うかな 「お世辞なもんか。一応クーの彼氏だって自覚はあるぞ。多分世界で一番お前のことが好きだ。ベタ惚れなのは こっちだって一緒だ」 「そうか。  ――ああ、私も男が大好きだ。この世で、一番」  ふと、笑った。 「――ッ!!」  不意打ちだ。  普段絶対に笑うことなんか無いのに、こう言う時ばかり表情を激変させやがって。  見慣れてないヤツには少し笑った位だとしても、普段から一緒にいる俺なら、今のクーの笑顔が満面の笑みだ って解ってしまう。  こっちはもう顔が真っ赤だ。  さっきの台詞を思い出して、もう今すぐにでも走り出したい。  …いつも思う。よくクーはあんな台詞を臆面も無く言えるなって。 「…何がそんなに楽しいんだよ?」 「ん、そんなににやけていたか?」  ああ、俺にしか判らない位にはな。 「――そうだな。  今まで私はこの思いは私の一方的なものだと思っていた。  でも、同じ事を想ってくれているとキミは言った。  それが、ただひたすら嬉しい。  今すぐにでも、つい走り出したい程だ。」  やめてくれ、そんなクーを他の奴が見たら卒倒しかねん。 「ああ、いつも恥ずかしいのを堪えて男にこの気持ちを伝えてきたかいもあったものだ」 「…は?」  いま すこし せかいせっていとかきゃらせっていとかが くうてん した 「何だ、私がいつも何も感じず考えずであんなことを言っていたと思っているのか?  私を何だと思っている。男といるだけでも心音は上がるし、男のさっきの言葉は  聞いただけで十分赤面ものだった」  いや、全然そうは見えませんでしたが  ―――でもそうか、クーにも人並(とは流石に言えんか)の羞恥心はあったのか――― 「でもそうか、ああいう言い方もあるのだな。  よし、今度は私が男のことを余すところ無く誉めよう」  と思えたのは、やはりほんの一瞬。まずい。今のクーは絶好調だ。 「やめてくれ、誰か見ていたら恥ずかしさ倍増だ」  というか、俺がいい加減逃げ出したい。 「だが今の台詞は明日には教室中に広まるぞ? クラスの人が数人通りがかってたからな」 「――な、」 「丁度いい、これも機会だ、明日からは行きも帰りも腕を組んで行くぞ!」 「ちょwwwwwwまwwwwwwwww」 「ああ、明日が楽しみだ――と、もう家か。名残惜しいが――では、また明日な」  彼女は自宅に入る。  隣には俺の家。  明日の朝はそりゃもうもの凄い勢いで起こしにくるのだろう。 「でも、まぁ」  明日が楽しみだ、とクーが言った。  なら間違いなんかない。俺も明日を楽しむことに――しよう。  ウワサ好きのクラス連中を思うと少し頭は痛いけど。